自民党「憲法改正草案大綱」を斬る           

 ※「憲法9条を守る愛媛県民の会」の発行する『九条タイムス』第2号
  (2005年3月) に掲載したものである。



 自由民主党は、結党50周年に当る今年11月までに憲法改正の草案を決定し提起することを決めています。このスケジュールに沿って、同党の憲法調査会は、昨2004年6月には、「憲法改正の論点整理」を公表し、また1117日に「憲法改正草案大綱」(以下「大綱」と略す)作成し、党内の検討に付しました。
 今回の「大綱」の内容の特徴は次のとおりです。
(1)自衛軍の設置と集団的自衛権の承認
 憲法改正の焦点が9条改憲にあることは、衆目の一致するところです。「大綱」は、「自衛軍」設置を規定しました。すなわち戦力の不保持を規定した現行憲法の平和主義を大転換し、軍隊を保持することを明確にしました。また自衛軍は、わが国の防衛だけでなく、「国際貢献のための活動」を行うことも任務としました。これは、いわゆる「(制限された)集団的自衛権」を容認する立場に立つものだという説明も付されています。これらの規定は、アメリカの起こす戦争に対して、日本の軍隊が随時参戦できるようにするものです。

先ごろ中谷元起草委員長(元防衛庁長官)が、この案の作成過程で自衛隊幹部を関与させていたことが明るみに出て、シビリアン・コントロールの原則を破るものだとして批判を浴びました。
(2)「権利の体系」を「義務の体系」に
 憲法の役割は、権力が暴走しないようその手を縛るものであると同時に、国民の基本的人権を保障するところにあります。これを「大綱」は、「義務の体系」に変えようとしています。「国民の責務」として新たに、「国家の独立と安全を守る責務」などを加えました。徴兵制は禁止すると書いていますが、これによって国民に「国防の義務」が負わされることは明白です。
(3)生存権、男女平等の敵視
 現行25条の生存権=「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は、プログラム規定に格下げされています。また、「論点整理」では、24条(男女平等)の見直しを主張していましたが、今回の「大綱」からはそのような露骨な表現は消えています。しかし、「家庭の保護」をうたい、女性にその役割を負わせようとする意図であること明らかで、男女平等からの逆行といえます。
(4)天皇の元首化、総理大臣の権限強化、憲法裁判所の設置
 「大綱」は、天皇が元首であることを明記しています。また「日本国の歴史、伝統及び文化」を「国柄」と説明していますが、これは明治憲法下で政治弾圧に猛威をふるった「国体」概念の再現です。
 国会については、衆議院の参議院に対する優越を一層強化しています。また行政権は、現行の「内閣に属する」という規定を「大綱」では「内閣総理大臣に属する」と改めています。これは国民の反対の多い「構造改革」などを首相のリーダーシップで効率的に実施する体制を作ろうとするものです。そのほか憲法裁判所の設置なども、違憲の疑いが濃い「改革」法案にあらかじめ合憲決定を出して、違憲訴訟の道をふさごうとするものです。
(5)憲法改正のハードルを低くする
 憲法改正の手続きについて、現行の制度のハードルを下げて、簡単に改正が行われるように企んでいます。
 私たちは、歴史に逆行するこのような改憲策動を許してはならないと考えます。