これまでの研究

セルオートマトンによる寡占市場シミュレーション

便益や効果を事前に評価するのが困難な財やサービスを購入する場合、口コミに代表される他者からの情報が多大な影響を及ぼす。本研究ではセルオートマトンによって他者の選択から受ける影響をモデルに導入し、同種競合製品の普及過程を分析した。


 1.市場には2種類の製品が存在し、各消費者(コンピュータ上のエージェント、平面状のセルとして記述)
  は自分の周囲での製品の使用量を観察し、より多く使用されている製品を好むものとする。
 2.各消費者は上記に基づく製品評価値と実際の価格を比較し、正の数値なら製品を購入する。
 3.製品は毎期買い替えるものとし、そのつど周囲の状況を見ながら選択をおこなう。


シミュレーションにより、初期状態のわずかな差によって最終的な製品シェアが大きく異なることが観察された。また、製品価格が販売量に応じて局所的に変化する条件を導入することで、市場の状態が複雑に変化することが確認された。


ネットワーク型囚人のジレンマのシミュレーションと被験者実験

通常の囚人のジレンマモデルと異なり、「自分で相手を選択し、お互いの指名に基づいてペアを形成する」ネットワーク型囚人のジレンマ[1, 2]のシミュレーションと被験者実験をおこなった。

 1.プレイヤは4人1組のグループに分かれ、グループ内から対戦を希望する相手を一人指名する。
 2.指名に基づいてペアを決定し、囚人のジレンマの対戦をおこなう。
 3.上記を繰り返し、どのような状況、相互関係が構築されるかを分析する。


ペアの形成規則は2種類用意し、相互指名によってのみ指名が成立する「指名ペア条件」と相互指名が成立しない場合にランダムに組み合わせる「強制ペア条件」をおこなった。
被験者実験より、長期的な相互協力を達成するペアが固定することが確認された。グループにより成立するペア数は異なるが、強制ペア条件の方が相互協力ペアが増加する傾向にある。

シミュレーションでは、相手の過去の行動履歴から相手の「信頼度」を数値化し、その値に基づいて行動を選択するモデルを構築した。
信頼度モデルによって、被験者行動で観察された相互協調関係の構築や、平均利得の傾向などを再現できた。


 【参考文献】
 [1] 神信人、林直子、篠塚寛美、「ネットワーク型囚人のジレンマの実験的研究:PD関係における
  コミットメントの形成」、実験社会心理学研究、第33巻第1号、1993。
 [2] T. Yamagishi, N. Hayashi and N. Jin, ``Prisonsers dilemma network: Selection strategy
  versus action strategy'', Social dillemmas and cooperation, pp. 233-250, Springer Verlag,
  Berlin, 1994.


仲介業者ベルトラン競争の被験者実験

古典的な市場均衡理論において明文化されてこなかった価格決定者を、マーケット・マイクロストラクチャー理論をもとに財の仕入・販売をおこなう仲介企業として市場に内在化し、2社の仲介企業がベルトラン価格競争をおこなう被験者実験により市場価格の形成過程を分析した。


 1.各企業は売り手から財を仕入れ、買い手に販売することで利益を得る。
 2.市場には競争相手が存在し、価格競争(ベルトラン競争)がおこなわれる。
 3.各企業はまず仕入値を提示し、仕入量が確定したら売値を提示する。
  (a) 仕入:高値をつけた企業のみ仕入れられる。同じ価格を提示した場合は折半とする。
  (b) 販売:仕入れに成功した企業が売値を決定する。
    2社とも仕入れられた場合は同時に売値を提示し、安値を提示した企業が優先的に販売する。
    ただし、安値をつけた企業が全ての仕入量を販売してもさらに需要がある場合には、高値をつけた
    企業も可能な限り販売することができる。
 4.以上の手順を繰り返す。

被験者実験では市場均衡価格付近に収束する例が多く見られたが、一部の被験者は高値で売り上げをシェアするという協力関係を構築した。