環境問題について考える

2012.3.27 化学工業の原点

 わたしの最初の専門は応用化学という学問であった.大学の図書室にフリッツ・ハーバーという学者が来日したときの「書」がかざられていた.彼は世界で最初に窒素と水素からアンモニアを合成する方法を確立した.空気に含まれている窒素を生活に使える形にしたというこの発明は,化学工業の原点である.そのおかげで,枯渇しそうであった天然窒素資源(チリ硝石)にたよらずに世界中に化学肥料を供給できるようになって,農産物の収穫量は飛躍的に増加した.アンモニアの合成技術の発明は,電灯や集積回路やワクチンの発明とともに20世紀のわれわれの生活の土台を革命的にかえた.とかく化学肥料を悪者扱いする場合もあるが,生産量を全世界でおおはばに増やすという現実的な役割をはたしている.

 空中窒素をわれわれがつかえるようにしたこの発明で,爆薬も無尽蔵につくることができるようになった.もちろん爆薬自体はいつも悪者というわけではない.化学肥料も爆薬もつかいかたしだいである.