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生命はこの宇宙においてもっとも不思議な存在である.生命がどのように地球に誕生したのかという問題は,古くから考えられてきた.20世紀に入って科学技術はおどろくほど進歩したが,この科学の力で我々は生命はどのように出現したのかを解明できるだろうか.< /p>
生命は物質からできている.物質の世界は化学の世界である.化学を理解すれば生命を理解できるだろうか.実際,生命を理解するために,その中に潜む化学を解明することにおおくがついやされてきた.もちろん,それだけでは十分ではない.もし人工的に生命をつくろうとすれば,化学の力が必要である.ミラーは1953年に原始地球大気を模擬して,そこに無声放電してアミノ酸を合成することに成功した.化学の実験で生命をつくろうという試みは,フランケンシュタインの怪物を実験室でつくるような,なんとなくいかがわしい,普通のサイエンスと扱われない分野に見えるかも知れない.ミラーの実験によって,生命の起源の研究はすこしずつサイエンスの一分野として認識されるようになってきた.
地球あるいは宇宙で生命が出現したことは事実である.原始地球上では太陽・宇宙・地球内部のエネルギーを受けて,大気・海・岩石が化学反応をおこし,次第に複雑な物質が自発的に生成し,生命になったと考えられている.この過程,つまり「単純な化学物質が自発的に組織化して生命体となる」過程は,宇宙の本質であり,化学反応のもっとも注目するべき特徴を表している.化学の原理と分子というものは我々の生活に必要なものをつくり産業をささえているが,いまのところ,化学こそが生命をつくることができる唯一の法則であり素材である.
現在,生命の起源の仮説としてよく研究されているのはRNAワールド仮説と,生命は熱水中で誕生したとする熱水起原仮説である.しかし,この2つの仮説は矛盾するようにみえる.我々はこの矛盾を科学的に解明する研究に取り組んできた.そのためにRNAが原始地球環境で化学進化する過程を調べた.平行して,熱水中でRNAワールドができるのかどうかを世界にさきがけて研究してきた.そのための装置や方法論もつくった.今のところ,RNAワールドはかなり高い温度まで可能であると推測している.これからもさらに色々な実験をしてあきらかにしていく.
生命とは何か.生命をどのように定義するか.生命は主体性をもつシステムである.地球上のあらゆる生物は全て細胞で構成されている.例外はない.これは地球型生物の特徴である.もう1つは,長い地球環境の変化にさらされながらも継続して生きて生きたと言うことである.それを可能にする性質は生命が環境の変化に対応したり,環境を取り込んだり,環境に対応する主体的な関係を持っていることによる.主体性がどのようにして単純な化学物質の集団から出現したのかはまだ分からない.