RNAワールド

 RNAには情報を保持する機能だけでなく,酵素機能を持っていることが発見され,最初の生命体ではRNAが中心的な役割を演じたと考えられている.つまり,RNAを中心とする生命体が存在したというのである.実際,RNAは現在の生物においても遺伝情報はDNA→RNA→タンパク質というように流れていく.また,生命のエネルギー物質であるATP(アデノシン5'-三リン酸)は生命の共通のエネルギー物質である.さらに,性重要な補酵素にはRNAの原料であるヌクレオチドの部分構造が含まれている.
 核酸が先か?タンパク質が先か?と言う問題は,古くから論争がつづいているが,RNAは情報と機能の両方を持つことが出来るのに対して,タンパク質は情報を保持できるという証拠は今のところ得られていない.
 RNAワールドはもともとは生命の起源の仮説であったが,現在の生命の世界を見渡してみると,この世界はもちろんタンパク質ワールドでありDNAワールドでもあるが,RNAワールドでもあったということが分かりつつある.実際RNAはからだを構成する物質として大きな量を占めている.また最近,RNAi,miRNAなど,これまで見えなかったRNAの働きが急速に研究されるようになってきた.ウイルスを構成するのも主にRNAとタンパク質であり,生物進化に大きな役割を果たしたことがすこしずつ分かってきた.元々のRNAワールドの意味を超えて,いまRNAの世界は大きく広がりつつある.このようなRNAがどのようにして初期生命体を構築したのかを解明することが目標である.


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 粘土触媒によるRNA生成(その温度依存性,左から0, 25, 50, 75, 100℃)Kawamura & Maeda, J. Phys. Chem., 2008より

熱水起原仮説

 我々の共通の起源はおよそ38億年前に遡ることが出来る.その共通の起源はLast Universal Common Ancestor (LUCA)と呼ばれる.LUCAに近い生命体の生育温度を調べてみると起源に近いほど高温でいきるものが多い.このことから,LUCAは好熱性微生物であったと推定された.この仮説は反対する科学者も多い.一方で,熱水環境を模擬した化学進化実験を行うとタンパク質のような物質が生成する.
 我々は1997年ごろから熱水中で起こる高速化学反応を追跡する分析法の開発を手がけてきた.1999年には,2ミリ秒〜200秒の範囲で反応を追跡できる方法を確立した.また2002年には熱水反応を紫外可視吸収スペクトルをその場測定して観測する手法をつくった.また,2011年には,鉱物を熱水がダイナミックに相互作用する反応系をシミュレーションし解析する方法をつくった.これらを用いて,生命の熱水起原を検証している.まずは,測定を通じて正しい知識を得ることが実験科学では不可欠である.これまでは,主に熱水中でのRNAワールドの可能性を検証した.今後はこれらの方法を使って,様々な化学進化を研究していく.


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 フローリアクターによるオリゴアラニンの伸長反応(Kawamura et al., J. Am. Chem. Soc. 2005より)

生命システムの時間発展の理論

 生命とは何であろうか.生命をどのように定義すればよいだろうか.また,生物の世界は階層構造をつくっているが,アナロジーをみることができる.例えば,生体分子→分子集合体→細胞内器官→細胞→個体→生態系や種のような階層構造である.このようなことはどのように答えられるだろうかと言うことから,生命を時間軸上での発展という視点から統一的にとらえ理解することを試みてきた.まず,生命の定義であるが,どのような視点で定義するかによって,まったく異なる定義ができるだろう.例えば,メカニズムあるいはミクロの目から見ると,代謝・複製・変異するものと定義できるかも知れない.しかし,私は,生命を環境との関係でとらえる,環境に対してどのような応答をするかという視点で、定義を試みた.この結果は,1999年にイタリアで開催された国際会議で基調講演を行った.
 その概念を発展させていくと,なぜ生命系が階層構造を持っておりその階層構造は環境に対してどのような働きをしているかを論理的に説明できる.生命システムはそれを構成する要素と全体からなる.要素は単細胞生物なら生体分子であり,多細胞生物なら各細胞である.また,生態系では個々の生物が生態系というシステムを構成する要素である.生命の世界は,要素と全体の関係において,それぞれ特徴をもっているが,お互いに似ている部分もある.このような考えに基づくと,我々のもつ究極的な生命系である文明系においては,文明が細胞や個体という上位の階層に相当し,ヒトは生体分子や各細胞に相当する部品である.ここで大事なポイントは,上位の階層は環境と直接相互作用し,構成要素は環境とは直接相互作用しない傾向があるということである.実際,我々も文明化が進んで本当にヒトは部品のようなものになっており,文明なしには生きて行かれないと感じている.このような思考法は,このような文明社会で我々がどのような生き方をすればヒトらしく生きられるのかと教えてくれる.


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 生命システムの時間発展(進化)のより一般的な機構モデル

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 生命システムの時間発展(進化)とダーウィン進化論との関係

熱水リアクターを利用する分析法

 我々が開発した熱水フローリアクターの原理は,様々な液相中で起こる化学反応を分析する方法としても新しい研究ツールとなることが注目されつつある.いままで高温高圧の液相反応中で何が起こっているのかを観測することは難しかったが,それを可能にしたのである.この方法を使えば,プラントで行われている反応を,省エネ・省資源・安全なものにできると期待されている.


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 熱水フローリアクター(リアルタイム分析・その場紫外可視吸光分光測定)

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